本コラム執筆者、林さん主宰のアーツアライブでは、昨年からプロのアーティストによる生演奏を、普段の生活の中で触れる機会が少ない医療・福祉の現場にいる人々に届けるプロジェクト「アーツアライブ・コンサート」を始動されました★アートの息づく場所は、色んなところにあると教えられます。
※枠付き掲載写真は、マウスを重ねると拡大表示されます。

 

私は、1999年より「アーツアライブ(http://www.artsalivejp.org)」 という活動を継続している。アーツアライブとは、医療、福祉施設を中心とした普段アートに接することのない人々にアート、芸術を届けることにより、その場と時を芸術を通して共有することにより、お互いに生き生きしようという目的を持つ任意団体である。アートは「芸術」、アライブは「生き生きしている」、という英語をあわせた造語である。
活動を始めた当初は、病人や高齢者など元気のない人々をアートによって癒すことを目的にしていたのだが、活動を続けていて、癒されるのは、高齢者だけでなく、芸術を提供する側、つまり作家の側も同時に癒されることに気づき、癒すという一方が一方に与える行為でなく、活動を通して、お互いに元気になる、生き生きするという意味を込めてアーツアライブと呼ぶようになったのである。この活動については 拙著「進化するアートコミュニケーション」(レイラン)にまとめてあるので、ご興味のある方はご一読いただければ嬉しい。

左:林容子さん、右:霧生トシ子さん、奥:太田寛二さんさて、私のバックグラウンドが美術であることから、これまで活動は、美大生や美術家を中心に行ってきたが、一昨年より、私が教鞭をとる尚美学園大学の同僚である霧生トシ子さんのご協力を得て、彼女と彼女のパートナーであるジャズピアニスト太田寛ニさんによるピアノコンサートも開催している。これまでに5回のコンサートを5つの施設で開催したが、いずれも大変喜ばれている。

新しいところで8月にもコンサートを開催したが、まずは6月21日に江東区に新しくオープンしたパークサイドという名の母子寮での、これまでに開催したコンサート以上に盛り上がった点について考えたいと思う。
この母子寮は、オープンしたばかりで、入居しているのは、6組の母子のみ、そこで、隣接する短期療養介護施設からも希望するお年寄り30名ほど、さらに、声をかけた施設の近所の人々も10名ほど参加したので、子供から中年、お年寄りまで多様な年齢層の観客が集まったのである。同施設は、母子寮でありながら、同じ福祉法人が経営し、隣接する老人介護施設、そして、近隣のコミュニティーと連携を作っていくことを希望している。そこで、今回のコンサートは、新しい母子寮のオープン記念を兼ねて、お世話になった近隣の人々、隣の施設の高齢者も招待して開催されたのだ。これまで私達が開催してきたコンサートはどれも、好評ではあったものの老人ばかりの会場で開催された。

2008年サンクスコンサート/母子生活支援施設 パークサイド亀島

今回は高齢者に加え、小さな子供や若い母親たち、そして、近所の人々といった 多様な年齢層が集ったので雰囲気はずっと明るいものになった。全ての年齢層に親しみを感じてもらうように、ジャズのスタンダードナンバーから、「荒城の月」、モーツアルトの「トルコ行進曲」、そして、ディズニーの「星に願いを」まで実に多様な9曲の演奏の後、割れんばかりの拍手でアンコールが求められ、お二人は、ジャズの「A列車で行こう」をデュオで演奏してくださった。送迎バスの時間の制約から途中で退席されたお年寄りも4名ほどいらしたが、それ以外は、お年寄りよりも子供も飽きることなく、最後まで演奏を堪能した。

2008年サンクスコンサート/母子生活支援施設 パークサイド亀島

アーツアライブの活動の目的には、医療、福祉の現場を生き生きとさせたい、また社会に開かれたものとする一助になりたいということがあるが、現実は、厳しい。日本の高齢者福祉施設は決して開かれたものとはいえない。初めてそのような場を訪ねる人は、皆その特殊な雰囲気に圧倒されてしまう。それは、おおかれすくなかれ、身体が不自由な御年よりばかりが集まっている場所だからである。もちろん、介護士の方や看護士の方などは、若い方が多く、親身に介護に従事している。それでも圧倒的な雰囲気は決して明るいものではない。今回のコンサートを見ていて、お年寄りのみを隔離するのでなく、また、子供と母親だけでなく、多様な年齢層の、多様な立場の人が同じ場所に集うことの重要性を痛感した。
そもそも、老人介護は、地域の中で、それぞれの家庭の中で行われていた、それが核家族化が進んだことで、介護専門施設により介護が中心となったのである。現在の高齢者施設はとても開かれたものとはいえない、しかし、コンサートやアートの活動を通して、近隣の人々を巻き込み、少しでも介護施設や母子寮などの福祉施設を開かれたものにすることができれば、それらの場所が健全に生き生きとさせることができ、それが結果として、社会を良くすることにつながるのではと思う。経済中心に動く社会において、人々のつながりを築くことは容易ではない。経済的価値に重点を置く社会は、個人を置き去りにする。人々の心に訴えかけることのできるアートや音楽といった芸術の力は、今のような人々のつながりがない時代だからこそ、必要とされているのではないだろうか。

10年前にほんの出来心と好奇心からはじめた活動であるが、社会においての必要性を痛感し、また、活動に賛同してくださる方が少しずつ、しかし、確実に増えているのをありがたく感じて、これまで任意法人としていた活動をNPO法人化するべく今動いている。
このサイトを見ている作家の方、また、作家を応援したい方、そして、社会を変えたい方が今後なんらかの形でアーツアライブに関わってくだされば嬉しい。

8月実施した、熱海と新富士の施設を中心に滞在型アートプロジェクト。このことについては、また今度お話ししたい。

 

次回は「最新アジア現代アート事情:深釧、香港、上海、広州、シンガポールをめぐって」のお話です。お楽しみに☆